瀬戸内レモン

様子がおかしく語彙がない

人生で一番高い買い物、二重瞼

私は手術をしたことが人生で三度ある。

一度目は小学一年生の夏、自転車の二人乗りを父親としていて(ほんとうはダメ)後輪に足を巻き込んでメチャメチャいっぱい縫った。すぐ目の前が大きい病院だったため即座に担ぎ込まれて大事には至らなったが、今でも傷跡が残っている。左右がまだ覚えられていなかった幼い私は、『傷があるほうが左』で覚えた。

二度目は小学校高学年のこれまた夏。大人用の自転車を漕いでいた時にふらついて、近くの電信柱に手をついたら電信柱に巻き付けられている金属製の板に指をひっかけて結構縫った。これはうっすら縫い跡が見える程度に残っている。ちなみに右。

どちらもなぜか夏・自転車という二点が共通している。

そして三度目の手術が去年の12月4日。今回は冬だし、自転車も関係ないし、なんなら事故でもない。二重埋没の手術をした。

 

私はめちゃめちゃ重い一重まぶたである。平安時代の絵みたいなほっそい目で、まつ毛の生え際も見えない。

平安時代なら橋本環奈くらいちやほやされたかもしれないが、私の生まれた平成ではパッチリ二重が正義だった。

さいころからずっと二重に憧れていた。

私以外の家族は全員二重で瞼も薄い。妹は鼻とか私に似ているが目がくりっとしてるだけでだいぶんかわいいし、父親は普通に街歩いてると不法入国した人だと思われて職質されるくらい、濃くてはっきりした二重の顔だ。なんで自分だけ一重、しかも激重のヤツなんだろうとかなり落ち込んだこともあった。

自虐ネタにすることもあったけど、なれるもんなら二重になりたい。今は化粧品の技術が進歩しているので、二重瞼を作る方法がいろいろある。シールはったりノリ付けたり糸を食い込ませたり。私もそれらを駆使し、二重瞼っぽいものを作っていた。

 

この年まで埋没に手を出してこなかった理由は三つ。

お金がない。手術が怖い。ダウンタイムの休みを確保できる気がしない。しかしやってみた今、全部言い訳だったように思う。確かに全部大事なことだけど、マジで本気真剣やる気になったらどうにでもなった。

 

やろうと思ったきっかけは、ありていに言ってしまえば「友達がなんかめっちゃやってたから」だ。

同じく一重瞼に悩んでいた友達が、その年何人か埋没の手術をした。親しい子には経過を見せてもらって、どんなものなのか具体的に知ることができた。それで、結果みんなやってよかったと言っている。

やっぱり身近でやってる人がいると「自分もできるかも」と思えるものだ。今はコロナ禍で、外出の機会も少ない。目だからマスクで隠れないし正味関係ないけど、なんとなく勇気が出た。

 

予定が詰まっていたのでひと月以上先の12月4日にカウンセリングの予約をした。

埋没は美容整形の中ではかなり簡単な手術なので、その日に受けることができる。予約してからずっと、二重になれるかもと思うだけですごくドキドキした。

私は12月1日が誕生日なので、自分の誕生日プレゼントということにした。ボーナスもあったし、26年悩んでいたコンプレックスを解消するなんてこれ以上ないプレゼントだと思う。

 

カウンセリング当日。経過を見せてくれた友達と同じ病院にしたので、流れはすべて頭に入れていた。受付して手術の説明ビデオみたいなの見て、お医者さんに様子を見てもらってこのぐらいの二重にしましょうって相談する。それから手術。

病院はビルの中にあって、なんとなく雰囲気がキレイ目の歯医者さんっぽかった。

カウンセリングで「瞼が分厚いのであんまり幅作ると取れたり眠そうな目に見えると思います」と言われたので、奥二重程度にしてもらうことになった。自分の顔の好みも狭い二重なので、そこはよかった。

病院によっては目頭切開とか瞼の脂肪をとるとかも勧められるらしいが、私が行った病院ではそういうのはなくて、安心した。

 

お金を支払って顔を洗ったりいろいろ準備してから、手術に臨む。

正直手術時間より待っている時間のほうが長かったような気もするが、めちゃめちゃ長く感じた。

麻酔がとにかく痛くて、ぶっといとげを瞼に刺されているみたいな感じがする。縫うの自体は麻酔でそこまで痛くなくて、とがったものでこしょこしょされているような感じだが、『目がなんかされている』というだけでだいぶ怖かった。

それとこれは同じ院で手術した友達に事前に聞いていたのだが、縫うときに「ちく…ちく…」って口で言う。系列が同じだけなので同じ医者じゃないはずなのに、そこ一緒なんだと思って面白かった。

痛みを意識しないために看護師さん(?)が手をぽんぽんリズミカルに叩いてくれていて、それがすごい気が紛れて助かった。

「力むと腫れるので力抜いてくださいね」と言われたが普通に無理すぎたので、術後はめちゃめちゃ腫れた。どうぶつの森のハチに刺されたときくらい瞼がパンッパンになっていた。
手術の後は目薬とか痛み止めとかをいろいろもらって、そのまま帰った。

 

準備不足でサングラスとか忘れたので、めちゃめちゃ怖い顔で歩いてしまったのが町の人たちに申し訳ない。もし子供が私とすれ違ったらギャン泣きしてたかも。髪の毛で顔を隠しながら帰った。

手術を頑張ったご褒美にタピオカを飲もうと思ったけど、カウンターで買う勇気の出ないような顔面だったので妹に頼んだら奢ってくれた。

手術についても「やったんや。ふーんお疲れ。よかったやん」くらいだったので、なんかそれがうれしかった。

 

術後一年経つが、今のところ取れる気配はない。

一応数年以内に取れたら縫い直してくれる保険つきのコースにしたけど、正直手術が怖すぎたのでもう二度としたくないと思っている。

それでも後悔してないし、本当にやってよかったと思った。今までの買い物で一番かもしれない。タイトル通り、今のところ人生で一番金はかかっている。

メイク動画を見て「アイシャドウを二重幅まで塗って…」ってかわいい美容系Youtuberに言われるだけでんなもんねーわ!とキレたりすることもないし、ビューラーしたのに瞼の厚みで全部落ちることもないし、プールや温泉にも行けるし、お泊りもできるし、汗もかけるし、メイク直しの荷物も減るし、メイクで出来ることが増えて楽しいし、何より自分にちょっと自信が持てる。いいことばっかりだ。

強いて言うなら、もともと自分はそこまで整形してるとかしてないとかにこだわりなかったけど、そういうことに否定的な人がかなりイヤだなと思うようになってしまったのがデメリットかもしれない。

別に個人の考えなのでいい悪いはさておき、
手術めっちゃこわいから。
軽い気持ちで「顔面やったんだw」みたいなこと言う人いると、ほんまに、
誰も生半可な覚悟でやってないから!!!!!!!
と、言いたくなるようになった。

めっちゃ痛いしこわい手術を我慢してでも直したくなるくらいのコンプレックスなんだよ~~~~!!そこをさ…わからずに言うてくる方、こころのノートとかやったほうがいいよ!!!!!!

 

ちなみに心配していたダウンタイムについてだが、痛々しくはない程度に腫れは引いたが明らかに違和感のある状態で仕事に行った。

みんな大人なので誰も何も言わないし、聞かれたら「普通にやりましたw」って答えようという気でいた。そしたら意外と平気だった。

 

一生二重でいられますように!!!